「んあ〜………今何時だ?」
起き上がったベッドの上で、煌めく金糸の持ち主が伸びをしながら辺りを見回す。
寝室のある地下室には陽の光が一切差し込まない。
なので時間の推移は壁に掛けられた特製の時計か、もしくは従者である青年に聞くのが1番手っ取り早いのだが。

いつもなら自分が目覚める頃には傍にいる、というより頃合いを見計らって起こしに来るのが常であった青年が、今日に限って気配を感知出来ないのにふと小首を傾げた。


「今夜は確か満月だったはず……なのにあいつはドコほっつき歩いてんだ?」
満月の夜には途方もなく膨れ上がる魔力の増大に、身体からこぼれるその力の一端を気付かれるのを恐れて、こんな日には滅多な事がなければ街に下りる事をせぬ彼だった。

けれど一切の光のない部屋の中で、それ自体が光源のように輝く金瞳の持ち主が気を凝らしてみても、屋敷内はおろか結界を張った自分のテリトリー内に従者の青年の気配は感じ取れない。

人狼としてはあるまじき程その身に貯えられた膨大なる魔力は、たとえ結界外であろうと容易に居場所を感知出来るはずの青年の不在に、闇の中で秀麗な貌に不快気な表情を浮かべて、金瞳の奥の真紅の瞳孔が物騒な光を灯す。
それは闇夜に浮かぶ不知火に似た、妖しく妙なる至上の輝き。



「まさか………あいつあそこに行ったんじゃねーだろうな………」
不快な気分を押し殺すように小さく呟かれたアルトに返る声音は勿論なく。
光はなくとも夜目に優れた視界で時計を見やれば、今がこの身にとって天敵である太陽の輝く昼ではなく、闇と月が支配する自分達の時間である事を確認して、壁に掛けてあったコートを手にして細い肢体を空に浮かばせた。

「……ったく、迷い犬の捜索なんてメンドくせーな」
云いつつも、闇に映える金糸の先を優雅に翻して踵を返す白皙の貌には、無意識の内に柔らかな笑みが灯り、小さくこぼした声音の中に潜む焦燥に気付かぬように、足早に部屋を後にする。

「傍を離れないと云ったくせにあのバカ犬…」
言葉の塊りは誰の耳に届くことなく、部屋の隅にころりと転がり、闇の中に静かに溶けていった…










【嘆くなり我が夜のFantasy〜act.1】











広大な敷地に、鬱蒼と生い茂る深い深い森の中。
人の足では到底辿り着くのも困難なほど、真昼でも暗く原始のままの佇まいを見せるその奥に、木立に紛れるようにひっそりと建つ大きな洋館。

周りの風景からは場違いなほど白く浮かび上がるその建物は、しかし周りの緑を圧倒するように厳然とそこにそびえ、しかし古めかしさを醸しだす風貌に似合わず綺麗に整備されたその屋敷の内からは、不思議と生活感らしき雰囲気は感じられなかった。
というよりも、人の気配が全く感じられないといってもいい。

それが比喩でも何でもなく、当たり前の事実であるという事を知っているのは、そこに住まう存在のみだろう。
時代的な音を立てて開かれた大きな作りの玄関の扉を抜け、前庭に姿を現した青年もその1人。


短く刈り込んだ淡い金髪と、陽光に輝く空の色を模った明るい青瞳。
服装はごく簡素な白のシャツと、この時代作業着としてよく着用されている深いインディゴのデニムパンツ。

高く伸びをして胸元から取り出した箱の中から、1本咥えて火を点けるその仕草はどこからどう見ても普通の青年と何1つ変わるところはない。
寝起きであるのか、垂れた青瞳を幾度か瞬きをして昇る紫煙を目で追いながら、ふと何かに気付いたように跳ねる前髪を大きな手のひらでかき上げた。



「……今夜は満月かぁ……。道理で昨日は中々寝付けなかったはずだ」
人の目には不可視であっても、青年の瞳には空に透明に輝く月の姿を容易に捉える事が出来る。
圧倒的な輝きを誇る太陽の前に、あえかな光しか持たない月は今はその姿を青空の隅にひそりと佇ませているにすぎないが、やがて訪れる闇の中でこそその真実の姿を表すように、深夜に皓々と照るその輝きを脳裏に思い浮かべて、青年の長身が一瞬ふるりと身震いした。


「ヤベ……今日は街に下りるのやめとこう……」
精悍な顔に浮かんだ苦笑の意味は、誰知らずとも本音の混じった深い意味が込められている。
自分でさえこうなのだから、まだこの時間、自室で深い眠りの中を漂っている主の傍を離れるわけには決していかない。

満月の夜というのは、魔性の者たちにしてみれば酷く重要で、それでいて血の滾りを押さえられない危険日でもあるのだ。
普段は抑えている血への欲望が最も顕著に現れ出る特別な一夜。
身体の中をざわざわと無数の何かが走り抜け、流れる血潮が太古の記憶に従って果てない飢餓感を放って寄越し、あふれ出る魔力の解放を望む声は、遥か深い心の奥底から叫びを上げて身を打ち震わせる。

だが本能からのその欲求に、簡単に答える訳にはいかない、今のこのご時世だった。
魔性の者と呼ばれている自分達の存在に、人々が恐れおののいていた時代はもう随分過去の事。
科学という名の学問の発達と共にその存在を闇の中へと葬り去られたモノたちは、枚挙に暇がない。

悪魔・魔女・吸血鬼・狼男・夢魔・数多いる生ける屍達………………

人間たちのいう文明が発達した近代において、不要と呼ばれその存在を一蹴されたモノ達ばかりであったが、決してその存在が無へと消え去った訳ではないのだ。
昼を統べる人間達がいくらその存在を否定したところで、闇を統べる存在である彼らは現実にまだ生き残っている。姿を人と大差ないものへと変え、魔力をことごとく抑え、人の世に巧妙に紛れて生き延びている魔族達。持てる力を最大限に発動出来る満月の夜ではなく、あえて力の弱い新月を狙って耐え忍んだ飢えを凌ぐ。長い年月で本来の魔力が大分薄れてきている者も数多くいたが、それでも満月の夜に発動される力の前では、人の命など風前の灯以下の些細なもの。

必要以上の命を刈り取って、後日自らが追われる事のないように、機を狙い密かな闇の一瞬にだけその真実の姿を現して命を繋ぐ、哀しい生き物。

しかし彼らの命を繋ぐのに、確かに最も最適なのは人の命であったが、それ以外にも生き残る術はある。獣を狩る事で、その肉や血を啜り、狩猟本能までを満たす己の種族や、大自然が持つ雄大な気を集めて身に取り込むこの屋敷の主のように。


魔族においては稀少といえる自分達が何故生き延び続けられているのかは分からない。
それでも死を願った事は今まで1度だってない。
孤独を孤独と感じずに、今まで永の時を独り過ごしてみてもそれは変わらない思いだった。
けれど今は更に強く思うことが出来る。



出逢ったものが、手にしたものが、かけがえのない大事な唯一を見つけてしまったから。



無から生まれた自分達に、きっと安らかな眠りは訪れない。
それでも今という大切な一時を守るためならば、どれだけの痛みと哀しみを背負っても構わないと、心底強く思う本能に似た叫びがある。

痛みも哀しみも、それを遥かに上回る至福と呼べる瞬間の前には、微塵の価値もないと、思わせてくれた唯一無二の自分だけの主。

血と魂魄で交わした契約に頼らずとも、もう自分が彼の傍を離れるなど、思うだに馬鹿馬鹿しく。
今もまだ深い眠りにいるだろう麗しの、魔族の中でも一際異彩を放つ金色の輝きを思い返せば、自然と青年の顔に浮かぶ笑みは、酷く嬉しげな愉悦に満ちていた。


「今夜は俺たちにとって正念場だからなぁ…」
月の持つ磁場に引き出されるように、体内を駆け巡る負の力と血への欲望が最大限に増す今夜。
いつもならば互いが互いをこれ以上なく求め合う事でやり過ごす事になっているその大事な日に、余計な邪魔など勿論決して望んでいない。
だから、



「だから困んだよなぁ……さっきからのこのヤ〜な空気……」
短い後ろ毛をちりちりと蠢かす不穏な気配に、青年はとっくに気付いていた。



血の半分を構成する獣としての本能ゆえか、他者の気配に遥かに聡い己の能力全てをもってしても、その気配の出所が掴めぬ事に若干の不快を瞳に浮かべる。

普段は抜けるような青空をかたどる瞳に、一瞬にして浮き上がった真紅の瞳孔。
魔性の証としてよく知られるそれは、普段は抑えている魔力の解放と共に姿を現す、金毛の耳や尾と同じく、青年がただの人間ではなくれっきとした魔族の一員であることの証明でもあった。
髪の色と同色の毛に覆われた獣としての耳には、人型であった時より何倍もの音を拾う事が出来る。
その中から背中を震わせるような先程の気を辿ってみれば、やはりと、真紅を刻んだ青瞳が屋敷の裏手を仰ぎ見た。


屋敷の前側に広がる深遠なる森とはまた趣きの違う、更に深い闇を背負ったような小高い裏山。
そこはいつもなら生の息吹を感じさせる獣や鳥も寄り付かぬ、昼でも尚暗い空気に包まれたまるで墓所のように静まり返った所であったが、今日に限ってはそこから絶えず何かの気配が感じられる。

しかし幾ら気を探ってもその出所は掴めず、かといってこちらに近付いてくる気配もない。
自分や主に害を為すものでなければ放っておくところなのだが、何せ日が悪いとしか云いようがないのだ。

今夜という日を滞りなく過ごせなければ、自分はともかく、あの秀麗な主にとっては、その細い体内に満ちる過度な魔力を抑えるために、要らぬ無茶をさせる結果となってしまう。
その行為を目にする事は、従者である自分にとって己の身を苛まれるより辛い光景だった。
だから気付いてしまった不穏分子の排除は従者の身にしてみれば当然の義務だと分かってはいるが、それより先にきつく言い渡されている主の言葉も無視できず、青年は途方に暮れる。


主曰く、「裏山には1歩たりとも足を踏み入れるな」。


詳しい言は与えられなかったが、言葉の端々にそこを毛嫌いする主の気が察せられて深く問う事は出来ずにいた。しかし屋敷のすぐ裏側に立つこの山が、どうやら主の管轄外であると知るのに時間は掛からなかった。主の張った結界内であればフリーパスとなる自分が、どうしてもその地にだけは足を踏み入らせる事が出来ないでいたから。


半人半魔でありながら、途方もない魔力を有する筈の主ですら敬遠するこの忌まわしき地。
そこに何が秘められているのか、暴こうと考えた事は1度もないが、今日この日に限っては異常事態を告げる本能が警告の音を発し続けている。



「今日の俺だったら、あそこに踏み入れられるよ、な」
月がその白い姿を見せるにはまだ幾ばくかの時間があったが、それでも身に沈む魔力があふれ出るほどに高められているのは嫌でも実感出来た。

ふと振り仰ぐ青瞳に、厳しい視線が過ぎった瞬間、僅かの砂埃と地に落ちた吸殻を残して、長身の肢体はその場から掻き消えるようにその姿を眩ませたのだった。











































そして数時間の後、従者である人狼の青年―ジャン―は、途方もなくただ深い溜息を吐いて激しく後悔した。持てる魔力を総動員しても、足を踏み入れた件の裏山からの出口が見付からず、どうやら激しく迷っているらしい現実に、飽きぬ溜息が連続して湧き起こるのを止められない。

方向感覚も帰巣本能も数ある種族の中でも飛び抜けて優れているはずの自分が、迷子。
いや迷い狼となっている現実がどうにもしっくりこない。

余りに認めたくない現実に、心が逃避を願っているのは分かってはいたが、それでも抜け出せない迷宮のような空間に入り込んでしまったのは、どう足掻いても変わらぬ厳然とした事実だった。



「さっきから空の色が全然変わってねぇ。……っつー事は、やっぱこりゃ何かの結界の中だな…」
高い木立の奥に見え隠れする空は、体内時計を無視して昼の青さをどこまでも提示している。その作られた色は、遥かに次元の高い魔力の持ち主の技の結果だと、否が応でも理解した。

理解はすれども、何度繰り返しても同じ道程を辿らされる果てし無い徒労感に、身体に圧し掛かる疲労度は蓄積されていくばかり。


「あ〜〜〜……マスターの云う事に逆らうんじゃなかったなぁ…まさかこんなハンパないトコだったとは…」
ぼやいてみても後の祭り。現実に抜け出せない自分がここを出るのに残された手立ては何1つない。




「は〜……」
今まで疲労を感じた事のない精悍な肉体が悲鳴を上げるほどに、疲れた身体を張り出した木の根元に下ろし、胸元から取り出した箱の中身を見てもう1つ盛大な溜息をこぼした。


「最後の1本……っつー事はもうかれこれ3時間は歩き回ってた訳だな」
それがまるで命の灯火でもあるように、火を灯して吸い付ける1差しを、深く胸に吸い込んで嘆く。

出口はおろか、気になっていた気配の正体さえ分からぬまま、ここで朽ちるのかと、滅入った気分に相応しくマイナス思考が止められずに、青瞳に浮かぶ視線も落ちがちになっていたその時だった。


身の裡を震わすほど強大な気配がすぐ背後に蠢いた事に、咄嗟の反射で一瞬にして鋭く瞬いた青瞳が、防御の姿勢を取りつつ木立の奥に視線を凝らす。

深く暗い木立の隙間を凝視してみても、そこには何もいないが、確かに何かが存在した。

矛盾する感覚にも、疑問を浮かべる前に姿勢は崩さず警戒を強めるジャンの、獣の本能が脳裏に鋭い警鐘を鳴らしていたのだった。





キケン、キケン、スミヤカニ、テッタイセヨ………





逃げる場所など思いつかない。果たして上手く逃げれるのかも分からない状況ではあったが、それでも身の裡を激しく揺らすその警鐘は、奥に潜む何者かの気配に己の生死の危険を鋭く告げている。

真紅の光が走る青瞳を隙なく左右に走らせ、うっそりと近付いてくる気配から最も遠く身を潜められそうな陰を必死に探した。


無駄かもしれない。この空間から出られぬ自分に、本当の逃げ場所など無いに等しいのかも。
だが獣の本能としての生への欲求よりも、脳裏に鮮やかに蘇った金色の光が、背に走る脅威を凌駕して告げる。



帰るのだ、何としてでもあの光の下へ…闇に生きる事を余儀なくされた己に与えられた、妙なる至上のあの輝きの元に………還るのだ…………



頑是無い赤子がむずがるような稚拙な願いであろうとも、心の奥深くから湧き上がる生への執着は、いつだって我が1人と定めた金色の主の下へと紡がれてゆくから。

あの光の傍にいることを選んだのは自分。ならばそれを覆せるのはやはり自分だけで、そしてまだその願いを放棄する想いなど欠片も心に浮かんでいない。
あの光の下に帰り着くまで、自分は諦める訳にも朽ちる訳にも、いかないのだ。


絶対に。


ジャンの青瞳に帯びた鋭い決心の一端が伝わったのか、木立の奥に潜む気配が一瞬揺らぐ。

その隙を狙って一気に反対方向の木立へと俊敏に身を翻した青年の身体は、思いもよらぬ光景に青瞳を見開いて全ての動作を停止せざるを得なかったのだった。










「……………………何してんだお前?」
「…………………………え…………?」
薄暗い木立の奥にひそりと立つ、身間違えようのない艶やかな金色。



細い肢体を縁取る金糸はさらさらと音を立てて靡き、鋭くジャンを見つめる金瞳の奥には、やはり真紅の瞳孔がきつい光を輝かせて瞬いている。



「俺、ここには絶対近付くなと、云わなかった、か?」
静かに告げるアルトがいっそ不穏なまでに空恐ろしく、背後に潜んでいた気配の事は一瞬にして脳裏から掻き消え、眼前に佇む麗姿の持つ覇気に気圧されるようにジャンの耳が伏せられた。



「マ、マスター……あのこれには訳が……………」
「言い訳無用。云う事が聞けない迷い犬にはお仕置き………だな?」
にこりと形容できそうなほど麗しい笑みも、その先を知る青年には悪魔の微笑みとしか映らない。



「いっぺん、逝っとくか?」
「大将〜〜〜〜!!」
人狼であるジャンの目にも留まらぬ早さで胸倉を掴まれた、と思った次の瞬間には、2倍はありそうな青年の身体を軽々と肩までの高さに持ち上げた小柄な肢体の持ち主は、歌うように朗らかにトドメの宣告を寄越したのだった。



「先に帰ってろ、屋敷前まで投げてやるから。後は自力で何とかしろ」
「大将待っ……!!!」
騒ぐ青年の主張には耳を貸さず、その細い肢体のどこからと思えるほどの力で、容赦なくジャンの大柄な身体は空へと放り投げられていた。

綺麗な放物線を描いて屋敷までの道程を飛んでいった肢体を目を眇めて追い、そして振り返った金瞳には、先程の笑みも怒りの影も削ぎ落とした、無表情な鋼鉄な輝きが浮かぶ。











「世話を掛けたな」
紡ぐアルトは、先程まで執拗にジャンが気にしていた木立の遥か奥に向けて。


「あんたがいたお陰であいつの居場所が分かった。……けどあんたがいなきゃ、あいつもここまで入り込みはしなかっただろうけどな」
感情の起伏が一切感じられない、淡々とした声音に返る音も無く、けれどそこにいるのだろう気配に向けて、鋭い輝きを有した金瞳が静かに告げた。





「あいつに手出しは無用だ。アレは俺のモノだからな。……あんたもあんまりうろちょろするな、迷惑だ」





それだけを云い放ち、身を翻した細い肢体の背後に、声とも音ともつかぬ深い響きが木霊する。












『エドワード………』













闇の中を凝る霧が音を発したらこんな風かと、思わせる重厚なその音に振り返ることなく、金色の肢体はその場を立ち去るのだった。



今も昔も、その音を待ち侘びた事などない。
そして今その名を呼ぶのを許すのは、己と同じ孤独を抱えていた唯一の従者である人狼の青年ただ1人。



「もう俺に………あんたの庇護は必要ない…………」
呟くアルトに答えるものもいないまま、金糸を風に揺らして立ち去るその後姿を、木立の奥でくすんだ光が静かに見送ったのだった。





































































「あ〜、まだ痛ぇ………」
「るっさいぞお前。もう怪我なんてとっくに塞がってんだろ?」


満月である今宵に、人狼の身であるジャンの身体の治癒能力は格段に高まっている。致命傷といえるほどの傷でも容易に癒せるその能力を持ってすれば、遥か裏山から放り投げられ、屋敷の前で受け身を取りつつ落下した時の傷など、とうに塞がっているはずだ。



「いや痛いのは身体じゃなくて、心の方……」
「寝言か?」
けんもほろろに切り捨てられる台詞であっても、事後の身体に灯る熱が触れ合った箇所を通して、新たな欲望の種火に熱を疼かせてゆく。




「ちっとは加減しろって。死ぬかと思ったぜ」
「そりゃこっちの台詞だ。加減しろこのバカ犬」
いや迷い犬か?と可愛らしく小首を傾げる仕草で、闇に眩い金糸がさらりとこぼれた。
あえてそれには言葉を返さず、こぼれた光の束を掬って口元に寄せ、空いた片手で横たわる肢体を抱き寄せる。






「2度はねーぞ。次あそこに入り込んでも助けねーからな」
「肝に銘じとくっす。……で、こっちは2度目に入っても?」
互いの肢体にまとう衣服もない状態であれば、高まった熱の昂ぶりを容易に察するのに事欠かない。
先程まで散々高め合い絡んで果てを見たはずの身体であったが、滾る魔力の増大ゆえか、裡に残る欲情という名の熱い奔流は、今だ鎮まりを見せずに体内で轟いていた。






「発情犬」
「んな事云ってると、寝かせらんねーぞ?」
「ハナっからンな気ねーくせに………」





くくっと妖しい笑みを刻む紅唇に、惹き付けられるように己のそれで深く塞ぐ。
光の差さない地下の寝台の上で、白い敷布に散った金糸が夜目にも鮮やかに、その背の動きにつられて流れて輝きをこぼした。



「……――――っ……ん……!」
「エド………エドワード……」
静かに、だが籠もる熱を隠さず自分を呼ぶ声音に、ふと上げた金瞳が真っ直ぐ青の視界を覗き込む。




「俺だけの………マスター……」
「…離れんな、もう………俺の……」
その先は深く重ねられた口唇の奥へと溶け、記憶に刻んだ約束は違えず互いの胸にしっかりと楔を繋いだ。
























孤独という檻に捕らわれていた遥か彼方の記憶はもう既に遠く、孤独を寄せ合い身を暖め続けた身体は、離れることを惜しむというよりただ、繋いだ先の熱さに眩んだ命の灯火が消えるその一瞬まで傍にと誓った想いに塗り潰されて。
人にも魔にも、獣にもなり切れない存在であるが故の孤独を癒せるのは、ただ繋いだこの熱さだけ。
夜空に皓々と照る満月が、屋敷の壁に白き御手を投げ掛け続けるこの一時に、独りと独りが啼いて嘆きを鎮める今宵はまだ永く……………


























































2006/07/03 脱稿
Sawada Yukari Presents.

設定説明するのについつい説明口調になってしまう文章が大変申し訳なく…(汗;;;
一気に全部を盛り込むのはやはり無理があるので(苦笑)少しずつ話を展開していけたらなぁ、と思っております。
2人が裏山にて出逢った方は、多分想像通りの方だと思われまs……;;;;
その内しっかりと登場するかと思いますが、今はまだ朧な影の存在で。

【GALLERY】のページに、この話のイメージイラストを恐れ多くも頂いてしまったので!
そちらも是非御覧になって下さい〜〜vvv
貰った(強奪した/笑)瞬間、PC前で1人悶えていたのは私です(笑////////
序章で書いた事をどこまでここ(本編)に入れるかの見極めが困難なんですが(滝汗;;;;;
頑張って続きも上げていきますvv
少しでもお気に召してもらえたなら幸いであります〜〜vvv